透析療法と合併症の記事一覧

透析療法と合併症

はじめに

1.慢性維持透析の現況
我が国において、慢性維持透析患者総数は年々直線的な増加を示しており、2005年度の慢性維持透析患者総数は257,765人であった。我が国では、世界各国と比べても長期の維持透析患者が多いことが特徴であり、10年以上の患者は59,415人で、このうち20年以上の患者が16,260人となっている。

 これを透析方法別にみると、血液透析患者は96.3%であり、腹膜透析患者は3.6%と少ない。また、2005年度の1年間に新規に透析導入となった患者数は36,063人であり、その平均年齢は66.2歳である。2005年度新規透析導入患者の原疾患は、糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎、腎硬化症の3疾患の頻度が高い。一方、維持透析患者の導入後生存率は導入時年齢によって異なり、当然のことながら高齢者ほど低く、2005年度の年間粗死亡率は9.5%であった。死亡原因の第一位心不全で全体の25.8%、次いで感染症19.2%、脳血管障害9.8%、悪性腫瘍9.0%、心筋梗塞5.1%、その他9.1%などとなっている。

2.透析患者と合併症

 血液透析患者にみられる合併症は、表2に示すように多岐にわたっており、透析中に急激に発症する急性合併症と、腎不全や原疾患を基礎として緩徐に発症し持続する慢性合併症とがある。このような合併症は全ての透析患者に発症するわけではないが、急性合併症のうち低血圧や筋肉痙攣などは比較的発症頻度が高い。また慢性合併症のうち腎性貧血や免疫不全は透析導入時点ではほとんど全ての患者に合併を認めるが、それ以外は維持透析療法が長期となるにしたがって発症の頻度が高くなる。ここでは、代表的な合併症について概略を述べる。特に慢性合併症については、現時点で薬物療法による予防や治療が可能となっているものをとりあげて概説する。

1)血液透析中に発生する急性合併症

(1)低血圧

 腎不全により貯留した細胞外液量を正常化するため、血液透析では限外濾過により循環血漿中より体液を除去する。この際、間質あるいはthird space(腹水や胸水)から循環血漿中(血管内)への体液の移動が血液透析での濾過量より少ないと循環血漿量が減少することになり、心拍出量が低下して低血圧が起こる。しかしこの循環血漿量の減少に対し、末梢血管抵抗の増大や心拍数の増加、静脈収縮による静脈系から動脈内への血液還流の増大などの機序が作動すれば血圧は維持される。

 血液透析中に低血圧となりやすいのは、①目標除水量(ドライウエイト)設定の不適正により細胞外液が正常量以下となるような過剰な除去、②時間当たりの限外濾過量の過大(急速な除水)③酢酸透析液使用や降圧薬服用などによる末梢血管抵抗の低下、④自律神経障害により血圧低下に対する心拍数の増加や静脈収縮の代償機序が作動不良、⑤心機能障害、などの場合である。

新規透析導入患者の原疾患(2005年度:日本透析医学会調査)

疾患名 人数
1.糖尿病性腎症 14,350 42.0
2.慢性糸球体腎炎 9,340  27.3
3.腎硬化症  3,069 9.0
4.多発性嚢胞腎 794   2.3
5.急速進行性腎炎 378  1.1
6.慢性腎盂腎炎 345    1.0
7.ループス腎炎  282 0.8
8.移植後再導入 219 0.6
9.悪性高血圧症 218 0.6
10.アミロイド腎  158 0.5

透析合併症

 A.血液透析中に発生する急性合併症

  1.比較高頻度にみとめるもの

     1.低血圧

     2.筋痙攣(つり)

     3.悪心、嘔吐

     4.頭痛

     5.胸痛、背部痛

     6.ソウ痒

     7.発熱

  2.低頻度であるが重篤なもの

     1.不均衡症候群

     2.ダイアライザ反応

        Type A (アナフィラキシー)

        Type B (胸痛)

3. 透析誘発性好中球減少と補体活性化 

4. 透析低酸素血症

B.維持透析患者の慢性合併症

  1.透析導入時にほとんどの患者に認めるもの

     1.高血圧

     2.腎性貧血

     3.免疫不全

     4.糖・脂質・タンパク代謝異常

     5.内分泌異常

  2.維持透析療法の期間が長期化するに伴って頻度が増加するもの

     1.腎性骨異栄養症

     2.二次性副甲状腺機能亢進症

     3.異所性石灰化

     4.心機能障害

     5.栄養障害

     6.動脈硬化

     7.アミロイドーシス

     8.免疫不全

     9.嚢胞腎・腎癌

    10.皮膚障害

(2)筋痙攣(つり)

 筋痙攣(つり)は、血液透析時間の後半に起こることが多い。主として下肢に出現し、痛みを伴う強い筋肉収縮が持続的に起こる。その原因は明確にされていないが、限外濾過による循環血漿量の低下と関連していると考えられている。

(3)頭痛

 原因は明らかではない。軽微な不均衡症候群の可能性がある。

(4)不均衡症候群

 不均衡症候群は血液透析での代表的急性合併症として従来より成書に必ず記載されているが、現実には発症頻度は極めて低い。本症は、透析治療により血液中の溶質が除去され血漿浸透圧が急速に低下することで脳細胞との間に浸透圧較差が生じ、水分が血漿より脳細胞内へ移動して脳浮腫が起こることが原因で発症すると考えられている。この他、脳脊髄液のpHの急速な変化も発症機序の一つとしてあげられている。本症は透析中のみならず透析治療終了後にも発症する。軽症では悪心・嘔吐、不安感、頭痛などの症状を呈し、重度では全身痙攣や意識障害を起こすとされている。しかし重度の不均衡症候群は近年まったく経験されないし、軽症の症状は低血圧に伴うことが多いので、純粋に不均衡症候群と診断されるケースはきわめて稀と考えられる。

2)慢性合併症

(1)高血圧

 慢性腎疾患が進行して糸球体濾過量が低下すればするほど高血圧を合併する頻度が高くなる。透析患者では約70~80%が高血圧を呈する。透析患者の高血圧の主因は尿中への水分・塩分排泄の障害によりこれが体内へ貯留して、細胞外液量増大から循環血漿量増大により心拍出量増大をきたすことによる。さらには、末梢血管抵抗の増大も認められている。透析患者の高血圧は、透析療法自体による除水により細胞外液量増大が解消されないと各種の高圧薬の効果が出にくい場合が多い。

(2)腎性貧血

 赤血球は骨髄で産生されるが、これには腎臓から分泌されるエリスロポエチンが骨髄に作用することが必須である。腎不全のためエリスロポエチンの分泌が著しく低下すると、赤血球の産生が減少して貧血となる。現在のエリスロポエチン製剤が臨床使用できるようになる以前の時代では、腎臓が廃絶した透析患者のほとんど全員が重篤な貧血に陥り、時には輸血を必要としていた。しかし近年では、腎性貧血はエリスロポエチン製剤の注射により健常者に近く良好にコントロールできるようになっている。

(3)腎性骨異栄養症

 ビタミンDは腎臓で活性型に変換されて本来の作用を発揮する。このため、腎不全により活性型ビタミンDの産生が著しく低下すると骨軟化症が○起される。あるいは逆に副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の作用不足により骨代謝回転の低下した無形成骨を呈する場合もある。腎性骨異栄養症はこれら透析患者に発症する骨疾患を総称したものである。本症が進展すると骨折や骨痛を起こす。近年では活性型ビタミンD製剤の経口あるいは静注や血清リン濃度高値の抑制により、ある程度の予防が可能となっている。

(4)二次性副甲状腺機能亢進症

 腎不全により血清活性型ビタミンD濃度低下、血清カルシウム濃度低下、血清リン濃度上昇により、二次的にPTHの分泌が亢進する。さらにこれが長期化すると、副甲状腺過形成から線腫へと進展する。予防と治療には、活性型ビタミンD製剤の経口あるいは静注を行ない、血清リン濃度高値を透析による除去や食事療法、リン吸着薬服用により是正する。長径10㎝以上の線腫を認め、血清PTH濃度が著しく高値となり、かつ薬物療法に反応せず、高カルシウム血症や高リン血症を呈する場合には、副甲状腺摘出術もしくは経皮的エタノール局所注入が必要となる。

(5)異所性石灰化

 高カルシウム血症あるいは高リン血症により、Ca×P積が高値となると、骨以外の臓器、特に血管や軟部組織にリン酸カルシウム沈着を主体とした石灰化が生じる。特に動脈に生じる沈着は動脈硬化進行の要因として重要視されている。また皮下軟部組織に腫瘤状の沈着石灰化を生じることもある。二次性副甲状腺機能亢進症の治療のために活性型ビタミンD剤を使用すると腸管からカルシウムとリンの吸収が増大し、これらの血清濃度の上昇を招くというジレンマがおきる。血清リン濃度高値を透析による除去や食事療法、リン吸着薬服用により十分に抑制することが肝要である。

透析治療10年後の生存率

全国平均透析患者の10年生存率は42.3%である。

10年間の死亡者は百人中57.7人

(参考数値:平成6年10年生存率45%)

一年間の死亡率は9.7%百人中約10人が死亡しています。

昭和50年代から大きな変化無く横這い状態であるが

死亡原因は例年通り心不全が最多であり、続いて感染症、脳出血、

悪性腫瘍であった。

透析患者にしめる糖尿病性腎症の割合よりも死亡例における

糖尿病性腎症の割合が多いことから糖尿病を基礎疾患としている

患者にはより注意を注ぐ必要がある。

日本透析医学会の調査(2003年末)では、

透析開始後の5年生存率は61.4%、10年生存率は39.2%、

15年生存率は28.7%、20年生存率が26.9%となっており、

患者の長期生存は大きな課題だ。

 透析療法の原因となった疾患は、糖尿病性腎症が41.0%、

慢性糸球体腎炎29.1%、腎硬化症8.5%、ほかに骨髄腫、

慢性腎孟腎炎、腎・尿路結核など多岐にわたる。

1994年透析患者生存率
期間 生存率(%)
1年 85.4
2年 75.9
3年 69.6
4年 64.0
5年 59.7
6年 53.8
7年 50.6
8年 48.3
9年 45.0
10年 43.6