オーストラリアでの移植の記事一覧

オーストラリアでの肝臓移植事情

 豪全国紙オーストラリアンは、クインズランド州ブリスベーンの州立病院で1990年代に、多くの外国人患者が18万豪ドル(約1500万円)を支払って肝臓移植手術を受けていたと報じた。大半は、医療ビザを取得して入国した日本人だったという。
 同紙によると、移植手術は豪州人の待機者が優先され、提供者の肝臓と血液型などが合わない場合に外国人に順番が回ってきた。昨年は、同病院で行われた36件の移植手術のうち、日本人患者は2人だった。

オーストラリアの移植の現状

近年オーストラリアでの外国人移植枠は撤廃となった。
移植リスクの比較  「生きる」ために選択   産経新聞より抜粋
≪ブリスベーンの風 移植先進地からの報告≫

 「フリーダム(自由だ)!」。サンタクロースのようなひげを生やしたポール(61)=仮名=は、今の心境を一言でこう表現した。
 オーストラリア東部、クイーンズランド州のある町で、運送業を営んでいた。2年半ほど前、腎不全を患って働けなくなった。自宅で人工透析の機械に数時間つながれる日が、当初は週3日、途中からは週5日。「ほかの日もすぐに激しい疲労に襲われてしまうんだ。人はただベッドで寝ているだけだと思うだろうけど、あまりに辛いんだ」
 今年5月、医師から電話で「がんの腎臓だが、移植を受けられる」と知らされた。病院で詳しい説明を受け、迷わず移植を受けると決めた。「とにかくあの機械から逃れたかったんだ」
 手術は5月22日、州都ブリスベーンにある州立プリンセス・アレクサンドラ(PA)病院で行われた。クイーンズランド州内の腎・肝移植を一手に行う中核病院だ。がんの見つかった患者の腎臓を摘出し、がんを切除したうえで、ポールの体に移植する。
 手術は成功し、腎機能は順調に回復した。
 「翌日にはそこらを歩き回っていたよ。普通の生活に戻ったんだ。あの機械に縛られていたころは、週末のショッピングにも行けないし、バーベキューをしても満足に食べられなかった。今はOKさ。トラックの運転もできるよ」
 ポールは太い腕でハンドルを握るまねをしてみせた。

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 PA病院では1996年以降、既に42人がポールと同じ手術を受けた。提供された病腎の摘出は州内の8病院で行われ、広域の提供システムができあがりつつある。さらに昨年以降、シドニーのロイヤル・プリンス・アルフレッド病院などでも3例行われるなど、他州に拡大しつつある。
 がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか−。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。
 腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4〜5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。
 移植待機中の透析患者の年間死亡率は平均16%。この数字は60歳以上だと25%に達する。原因の多くは透析による合併症。ポールと同じ60歳以上の患者の4人に1人が毎年、移植を受けられずに亡くなっていくのだ。
 一方、4センチ以下のがんが見つかった腎臓から、がんの組織だけを部分切除して腎臓を温存した場合、がんが再発する割合は5%前後だ。腎臓は人体に左右一対あり、片方を摘出しても機能は失われないため、多くの腎がん患者は、部分切除より再発リスクの低い腎臓摘出を希望する。
 こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。
 同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢に絞っているのだ。リスクの差が大きくなるからだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から一日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。

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 7月11日、PA病院で通算43例目となる腎がん患者からの病腎移植が行われた。
 午前10時、まずドナーの右腎臓を内視鏡で摘出し、続いてこぶのように膨らんだがんの病変部分を切除する。執刀したのはアイルランドからきた女性の研修医、ノーマ・ギブンス医師。摘出は順調にいったが、切除に手間取った。すかさず腎移植チームの責任者でクイーンズランド大学教授のデビッド・ニコル医師(46)がサポートした。
 ニコル医師のもとで学ぶ医師はギブンス医師ら総勢9人。このチームで年間110例以上の生体・死体腎移植を行い、国内外に巣立っていく。日本で最多の東京女子医大に匹敵する件数だ。
 がんの大きさは約3・5センチ。きれいに切除され、検査の後で、レシピエントの待つ手術室へ運ばれた。
 手術を見学した医師が言った。
 「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術だ。それよりも感銘を受けたのは、この効率的なシステムの素晴らしさだ」

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 日本の厚生労働省が「原則禁止」の指針を打ち出した腎がん患者からの病腎移植。だが、日本から多くの医師が研修に訪れる移植先進地、オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療になっている。この国で救われる命と、日本では救えない命。