余命宣告される前にできれば移植すべきだ!

余命宣告される前にできれば移植すべきだ!

移植で助かる」は本当か?

(いのちジャーナル別冊MOOK①より)

余命宣告される前にできれば移植すべきだ!

慶応大学医学部放射線科講師近藤誠

「もうあまり時間がないのです」

・・・・移植希望者はそう訴えてきた。

このままでは死を待つだけの人が、私の臓器移植すれば助かる。

早くしないと、今にも危ない。

そう思えばこその愛の行為。

ところが、どうもそんなに単純なものではなさそうだ。

末期患者が本当に選ばれるか

臓器移植を待っている人に対して、実際に移植が必要かどうかの判定は極めて困難です。

本来、脳死移植は、移植以外では助からない末期患者を選ぶことが条件です。肝移植心移植が開始された当初は、移植をしなければ半年生きる率が10%程度という患者たちが対象でした。これらは末期患者と言えるでしょう。

しかし、余命6カ月という場合、実は多くは1~2カ月以内に死亡します。逆に言えば、1~2カ月以内に死亡すると考えられる患者だけを集めたとき、判断の誤りから、10%が6カ月の生存を果たすのです【図表2】。

1~2カ月しかもちそうもないほど状態の悪い患者に移植すれば、たいてい失敗します。日本で実施されている胆道閉鎖症児への生体間肝移植では、移植前に入院して医療を受ける必要があるほど状態が悪かった場合は失敗(死亡)し、自宅で遊んでいた子では成功する傾向にあります。

脳死患者から摘出した臓器を使った肝移植心移植でも、移植前の状態が良ければ成功しやすいのですが、これは当然です。肝不全や心不全の末期は、全身諸臓器にまで影響が及んで機能的に破綻寸前にあります。そんな状態で移植手術を受けると、微妙な機能的バランスが崩れて死の淵へ転落するのです。

臓器移植の成果として、移植後の1年生存率が8~9割もあるとよく宣伝されます。が、そういった移植施設では、末期患者を対象にしているのか疑問です。

移植後の成績が不良なら、脳死移植に対する世間の支持を失ってしまいます。そのため欧米でも、新たに移植を始める施設は、状態の良い患者を選んで移植を始めたりしています。昔から移植を手がけている施設でも、選択基準を緩くしてきて、1年以上の生存が見込まれる患者も対象となっています。ドナー不足の現状からすると、臓器を有効に利用するには、状態の良い患者を優先すべきだという議論もあります。そうすると、状態の良い患者に果たして移植が必要なのか、という疑問に戻ります。

日本でも脳死移植が開始されました。高知の女性の心臓が移植された40才代の男性は、緊急度が最も高い「1」だと報道されました(読売新聞、99.3.1)。

当分は世間の目が光っているから、移植を受ける患者には、半年~1年の余命しかない人が選ばれるでしょう。しかし、それでは移植は失敗しやすく、移植医療への社会的合意は崩れ去る。そこで、状態のより良い患者がなしくずし的に選ばれることになります。ついには、移植の必要のない患者も対象となるかもしれません。

いったんそうなれば、移植対象は飛躍的に増加します。たとえば対象を、余命1年の患者までとする場合に比べ、余命2年までに広げると、単純計算上は潜在的レシピエント数は倍増にとどまるはずです。しかし、実際には数倍になります。それは次の理由によります。

肝不全や心不全が重篤化し、半年以内に死ぬはずの患者を選別するのは、先に説明したように比較的容易です。

1年以内に死亡する患者の選別も、患者の状態が良好なぶん難しくはなりますが、不可能ではないでしょう。しかし1年以上生存できるが2年以内に死亡する患者を選別しようとすると、それは不可能です【図表3】。

2年以内に死ぬ患者まで対象にするなら、実際には3年、5年と生きる患者が含まれてきます。余命1年以上の患者を対象にしている外国は、移植しないで数年生存する患者も対象とすることを認めているのです。

余命1年ならレシピ工ントに適当なのか

1年は確実に生きるが、2年以内に死亡する患者の選別が不可能なことは先にお話ししました。

その前提は、余命1年という患者の選別が可能という点にありました。しかし、余命1年という患者を本当に選別できるのでしょうか。

余命半年という患者は、ほば確実に判定できるとして出発しましょう。これを認めないでは、移植は成り立たない。そうすると、余命半年の患者を除くと、残りの患者はほぼ確実に半年は生きることになります。つまりそうした患者は全身状態が良好なはずで、すると前述のように、2年~5年と生きる可能性も十分考えられます。

また、移植医たちが立てる基準には、それ自体矛盾するものもあります。たとえば「余命1年と予想される重症心不全末期の患者で、しかも腎機能障害、肝機能障雪が認められないもの」というのもあります。

しかし余命1年の点はともかく、重症心不全の末期で腎や肝の機能障害がない状態は考えられません。こうした基準は、状態のよい患者だけを選び出すのが目的でしょう。

内科治療を諦めてよいのか

この点に関して、心不全のため自宅で心移植を待ちながら、ドナー不足のため移植を受けられないでいる患者を観察した報告があります。

心不全による死亡の危険性は、最初の6カ月が最も高い。しかし、半年間生存できた患者のその後の生存率は、移植を受けた患者の生存率と変わりません【図表4】。要するに半年生きられれば、移植の必要はなくなってしまうのです。その間の内科的治療が奏功したためと考えられます。その上、こうした待機患者の心機能は、移植を受けた患者よりもむしろ良好といいます。

ここからの教訓は、移植の対象とされる患者の中から、内科的治療をしても死亡する予後不良の患者を選び出して、彼らにだけ移植をすれば十分、ということでしょう。現在の外国の患者選定基準は、理論的にみて移植の必要のない患者に移植をしていることが多いと言えます。日本でもいくつかの施設では、移植候補者リストを作成し、ドナーの出現を待っています。そこでも、時間とともに状態が改善して移植の必要性がなくなり、リストから外された患者がいます。

身勝手な医師たちと無防備な患者たち

日本ではすでに少なからぬ患者が「移植以外では助からない」と宣告され、候補者リストに載せられ、死を待っています。

移植を受けられる確率はとても低いのに、移植医が患者に半年、1年の命と知らせていることに驚きます。がんでは、病名を知らせる医者でも余命については語らず、患者に希望を持たせるように努めてきました。それなのに、いつから日本は余命の宣告を許すようになったのでしょうか。これほど多くの患者に死を宣告するのは、脳死移植の競争に負けたくないからではないかと疑ってしまいます。

患者の権利法こそ先ではないか

これまで日本で脳死移植が慎重に議論されてきたのは、医者を信用できないせいもあるでしょう。移植医療は最も開かれた医療だと移植医は力説します。しかし一般医療での大学の閉鎖性、ボス支配の現状をみれば、空しく響くだけです。

医者の世界は、自由と平等と民主主義から最も縁遠い。綿密なシステムを作り、法を整備したところで、医療者の行動パターンが旧能依然では、公平で公正な医療が実現するとは考えがたいのです。それらの改善がないまま、移植医療を進めるのは危険です。本人の承諾なしに、手術や安楽死をさせたりする体質も問題です。 乳がんで、本人との約束を破って、もっと大きな手術をする医師がまだいます。また、本人への説明文書が非倫理的だと、患者団体が中止を求めている臨床試験を、国立がんセンターをはじめとする医療機関が頬かむりして続行しているのが現状です。

移植医療で本人意思の専重が強調されるのは、このように一般医療で本人意思が尊重されていないからでもあります。家族の意思で臓器提供を許せば、一般医療でも本人の意志の扱いがもっと悪くなります。脳死移植を進めるために「臓器移植法」が成立しましたが、これは臓器を摘出しても告発を受けないようにしないと、移植に協力する医者がいなくなるというのが理由の1つです。

一方で日本の一般医療には、患者を守る「患者の権利法」がまだありませんし、カルテ開示の法制化さえ医療審議会で先般見送られました。それなのに、移植という特殊な医療分野で、医者を守る法律が作られました。順序が逆ではないか。欧米の一般医療では、患者を守る法制度が完備していて、その上で移植が進められているのです。

移植と引き換えに何を失うか

移植が頻繁に行われるようになっても、ドナーの絶対的不足はなくなりません。

欧米の経験からは、植物人間からの臓器摘出や、ドナー家族への金銭支払いに関する議論を呼び起こします。脳死移植と引き換えに、こうした暗い将来が必ず生じます。私たちは、ここまで受け入れることに合意したのでしょうか。

移植しかないと知らされた患者は、脳死ドナーの出現を待つばかりでなく、先順位の患者の消滅も願うことになるでしょう。末期医療は大混乱に陥ります。

特に脳死移植では、真に移植を必要とする人が移植を受けられる保証はありません。移植の不必要な患者が、レシピエントに仕立て上げられる危険も大きい。疑問は一層深いのです。

それにしても、これだけ大騒ぎされる脳死移植は、たかだか年間数十人のための医療にすぎません。一般医療のうちのごく一部なのです。日本の医療には、救命救急医療の充実・改善をはじめとし、議論され改革されなければならないことが山積しています。一部だけが移植を受けられ、多数は移植を受けられないことをうらんで死んでいく。それは医療と呼ぶに値しません。もっと重要で緊急度の高い一般医療が改革される前に、脳死移植に力を入れる必要はありません。

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